第15章 名詞構文と無生物主語

無生物主語
─ 「物」が主語のときの自然な和訳

英語では「物」や「出来事」が主語になり、人を目的語にする表現が頻繁に使われます。
語順リーディングの段階では何も難しくありません。しかし、いざ和訳しようとすると途端に不自然な日本語になってしまう──
この章では、和訳プロセス②(統合)に焦点を当て、無生物主語を自然な日本語にする技術を身につけます。

1無生物主語とは ─ 語順リーディングでは問題ない

英語では、The heavy rain prevented us from going out. のように、「大雨」という人間ではないものが主語になり、人を目的語にする構文が日常的に使われます。これが無生物主語の構文です。

じつは、この構文は語順リーディングの段階ではまったく難しくありません。英語を頭から読めば、「大雨が → 妨げた → 私たちが外出するのを」と、語順通りに意味が入ってきます。

問題が起きるのは和訳プロセスの②(統合)のときです。「大雨が私たちを外出することから妨げた」では日本語として不自然です。日本語では「大雨のせいで、私たちは外出できなかった」のように、人を主語にして言い換えるのが自然です。

無生物主語の和訳 ─ 基本パターン

無生物主語を自然な日本語にするには、主語と目的語の役割を入れ替えるのが基本です。

  • S(無生物) + enable / allow / permit + O(人) + to V
    →「Sのおかげで、O(人)はVできる」
  • S(無生物) + prevent / keep / stop + O(人) + from Ving
    →「Sのせいで、O(人)はVできない」
  • S(無生物) + bring / lead / cause + O(人) + to V
    →「Sによって、O(人)はVする」
  • S(無生物) + remind + O(人) + of
    →「Sを見ると、O(人)は〜を思い出す」

いずれも、無生物 → 原因・手段・条件人 → 日本語の主語に組み替えるのがポイントです。

つまり、この記事で練習するのは語順リーディングそのものではなく、「英語のまま理解した内容を、自然な日本語に変換する技術」です。語順リーディング自体はさらりと進み、和訳プロセス②で腕の見せどころになります。

2例文1:enable 型 ─ 無生物主語を「おかげで」に変換する

例文 1

The discovery of ancient burial sites in the region enabled researchers to reconstruct the daily lives of people who lived there over two thousand years ago.

まず、語順リーディングで英語のまま意味をつかみます。この構文では語順リーディング自体は素直に進みます。

語順リーディング
The discovery of ancient burial sites in the region
── 主人公は「その地域での古代の埋葬地の発見」。まだ動詞が来ていないので主語が続いている
enabled
── ここで述語動詞が現れた。主語が確定する。「可能にした」→ この後に「誰が」「何をすることを」が来る
researchers to reconstruct the daily lives of people
── 「研究者たちが人々の日常生活を復元すること」を可能にした
who lived there over two thousand years ago.
── people の補足説明(関係詞節)。「2000年以上前にそこに住んでいた」人々。文が完結した

語順リーディングの段階では何も困りません。「発見が → 可能にした → 研究者たちが復元することを」と、英語の語順で意味が入ってきます。さて、ここからが本番です。これを自然な日本語にしましょう。

和訳プロセス
① 単語のコアイメージをもとに意味をざっくり捉える
The discovery of ancient burial sites in the region → その地域での古代の埋葬地の発見
enabled → 可能にした
researchers to reconstruct the daily lives of people → 研究者たちが人々の日常生活を復元すること
who lived there over two thousand years ago → 2000年以上前にそこに住んでいた
② コアイメージの範囲内で、文脈に応じ適切な日本語にする
その地域で古代の埋葬地が発見されたおかげで、研究者たちは2000年以上前にそこに住んでいた人々の日常生活を復元することができた。
enable のコアイメージは「できるようにする」。①の段階では「可能にした」と当てたが、日本語では「発見が研究者を可能にした」とは言わない。そこで無生物主語(発見)を原因・きっかけに回し、人(研究者)を日本語の主語にして「〜のおかげで、研究者たちは〜できた」と組み替えた。

別の訳し方として「その地域での古代の埋葬地の発見により、研究者たちは〜を復元できるようになった」でも自然な日本語になる。無生物主語を「〜により」「〜のおかげで」「〜によって」のどれで処理するかは文脈次第。

3例文2:prevent 型 ─ 否定の意味を含む無生物主語

例文 2

The widespread belief that economic growth alone would solve environmental problems has prevented policymakers from adopting the more aggressive conservation strategies that scientists have long advocated.

この文は無生物主語に加えて、同格の that 節や関係詞節が入り込んだ複雑な構造です。しかし語順リーディングでは、いつもどおり頭から読み進めるだけです。

語順リーディング
The widespread belief
── 主人公は「広く浸透した信念」。どんな信念だろう?
that economic growth alone would solve environmental problems
── 脇道に入った(同格の that)。belief の中身の説明。「経済成長だけで環境問題を解決できるだろうという」信念。ここの would solve は脇道内の動詞
has prevented
── ここで本筋の述語動詞が現れた。The widespread belief(+that節)が主語だったと確定。「妨げてきた」→ この後に「誰が」「何をすることを」が来る
policymakers from adopting the more aggressive conservation strategies
── 「政策立案者たちがより積極的な保全戦略を採用すること」を妨げてきた
that scientists have long advocated.
── strategies の補足説明(関係詞節)。「科学者たちが長年提唱してきた」戦略。文が完結した

語順リーディング自体はスムーズに進みます。「信念が → 妨げてきた → 政策立案者たちが採用することを」と、語順通りに意味が入ってきます。ここからが和訳の腕の見せどころです。

和訳プロセス
① 単語のコアイメージをもとに意味をざっくり捉える
The widespread belief that ... environmental problems → 経済成長だけで環境問題を解決できるという広く浸透した信念
has prevented → 妨げてきた
policymakers from adopting the more aggressive conservation strategies → 政策立案者たちがより積極的な保全戦略を採用すること
that scientists have long advocated → 科学者たちが長年提唱してきた
② コアイメージの範囲内で、文脈に応じ適切な日本語にする
経済成長さえすれば環境問題は解決できるという考えが広く浸透しているせいで、政策立案者たちは、科学者たちが長年提唱してきたより積極的な保全戦略を採用できずにいる。
prevent のコアイメージは「前もって止める」→「妨げる」。①では「妨げてきた」と当てたが、日本語で「信念が政策立案者を妨げた」は不自然。そこで無生物主語(信念)を原因に回し、人(政策立案者)を日本語の主語にして「〜のせいで、政策立案者たちは〜できずにいる」と組み替えた。prevent は否定の意味を含むので、和訳では「〜できない」「〜できずにいる」のように否定表現を使うと自然になる。

また、 widespread belief を「広く浸透した信念」から「考えが広く浸透している」へと名詞構文を動詞的に訳し直した。これは第15章の前半(15-1 名詞構文)で学んだテクニックの応用である。

4まとめ

  • 無生物主語とは、人間ではないもの(物・出来事・概念)が主語になる英語特有の構文
  • 語順リーディングの段階では問題なく読める。難しいのは和訳プロセス②(統合)
  • 和訳の基本パターン:無生物 → 原因・手段・条件に回し、人 → 日本語の主語にする
  • enable 型 → 「〜のおかげで、人は…できる」
  • prevent 型 → 「〜のせいで、人は…できない」
  • 無生物主語を「〜により」「〜のおかげで」「〜のせいで」のどれにするかは、文脈とニュアンス次第
  • 名詞構文(15-1)と組み合わさることが多い。名詞を動詞的に訳し直すと、さらに自然な日本語になる

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  • 名詞構文 → 15-1「名詞構文」:無生物主語と密接に関わる名詞構文の訳し方を扱います。名詞を動詞的に訳し直すテクニックを学べます。
  • 同格の that → 9-4「同格の that」:例文2の The widespread belief that ... のように、名詞の中身を説明する that 節を詳しく扱います。
  • SVOC の構文 → 2-3「SVOC」:enable O to V や prevent O from Ving は SVOC 構文の一種です。基本の型を復習できます。